好きになんか、なってやらない
「ただいま」
静かな部屋に、響く一つの声。
あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか……。
ただベッドに腰掛け、バカみたいな飼い犬のように、凌太の帰りを待っていた。
「……おかえり」
部屋に入ってきた凌太を、顔だけ上げて迎え入れる。
いつもと変わらない凌太だった。
「最悪だよ。昨日取引先に、企画のメール送り忘れててさー。
朝連絡来てた時、超青ざめた」
鞄を置きながら漏らす愚痴。
その言い訳は、帰り道にでも考えてきたの?
ぶつぶつと漏らす文句には反応しなくて、ただじっと凌太を見上げていた。
「……玲奈?」
私が無口なのはいつものこと。
だけどあまりにも何も反応しない私を不思議に思って、凌太が近寄ってきた。
「どうした?」
心配そうに覗き込む顔。
その顔を見ただけで、泣きそうだ。
帰ってきたら、いっぱい問い詰めてやろうと思った。
いつもの強気な口調で、納得するまで責めてやろうと思った。
だけど何一つ、私の口からは言葉が出てこなくて……
「っ……バ、カッ…」
たった一言、小学生のような悪口しかぶつけることが出来なかった。