好きになんか、なってやらない
 
「どうかした?今日も何か呼び出された?」
「あ、いえ。そんなんじゃないです」


この先、私なんかがスタジオに呼び出されることはないだろう。
あのときだって、相手が凌太だったからピックアップしてもらえただけだし。


「押尾さんは……これから仕事ですか?」
「そー。………美空のな」
「……」


一度溜めて、吐かれた名前。

押尾さんは知っている。
凌太と美空さんが付き合っていたことを。

そして……

今、私の反応を確かめている。


「……そうですか」
「反応薄いな」
「人が悪いですね」
「こういう性質なんでな」


嫌味をぶつけたのに、にやりと笑って返された。


第一印象も感じたけど、やっぱり苦手だ。
押尾さん相手だと、自分の心を読まれている気になる。


「何かあったか?まだ時間あるから、悩みなら聞くぜ」


煙草を取り出し、カチッとライターの火をつけると、そんな見透かした目を向けてくる。

黙っていても、意味がない。
きっと全部知っている。

だからこそ、逃げるのが嫌だった。



「……凌太はいまだに、美空さんが好きみたいです」



負けたくない思いから
愚痴をこぼすように押尾さんに吐き出した。
 
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