好きになんか、なってやらない
 
「何…それっ……」


抑えきれない涙が、滴となって零れ落ちて、
だけど口から漏れる言葉は、変わらず可愛くない口調。


まだまだ、素直になるには、言葉が少なすぎて……。



「バカはお前もだろ。ガキが」



それを制するように、押尾さんが口をはさんだ。
 

「俺からの電話がなければ、今も部屋でうじうじいじけてたくせに」
「るせっ……んなことねぇよ!」
「ほー。じゃあ、どうしてすぐに玲奈ちゃんを追いかけてこなかったんだ?」
「っ……」


どうやら、私の知らない間に、押尾さんと凌太の間で何かあったらしい。
いまだに状況を掴めていない私は、頭にハテナマークを浮かべたまま、二人の顔を交互に見やっていた。


「さっきな。こいつに電話してやったの。
 玲奈ちゃんから、凌太がヘタレなのを聞いて」

「私、そんなふうに言ったつもりは……」

「ヘタレだろ。好きな女に別れを告げられてるってのに、何もしないで部屋に閉じこもってるなんて」

「……」


それを聞くと、確かにヘタレだ。
だけど凌太が、私を好きだとは限らない。
あの時は確かに、凌太は美空さんを選んだと思っていたから……。


「こいつ、今までモテ人生だったろ?女に捨てられることに慣れてねぇんだよ。
 だから美空のときだって、フラれても何もしないで部屋に閉じこもって……。あげく仕事も辞めるしよー。
 また同じこと繰り返しそうだったから、ちょっとケツを叩いてやったってこと」
 
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