好きになんか、なってやらない
 
「そりゃ残念だ。
 俺も結構玲奈ちゃんのこと、気に入ってたんだけどなー。

 その強気な瞳とか」

「だからそんな目で見ないでくださいよ!」


再び、二つの鋭い瞳がじっと私を捉えると、グイと凌太のもとへ引き寄せられた。


「へいへい。俺はお邪魔だってわけね。
 仕事するかー」


両手を大きく伸ばし、背筋をピンと張る押尾さん。
めんどくさそうに私たちを見るけど、そこに彼なりの優しさがあったから仲介に入ってくれて……


「押尾さん」
「んー?」

「ありがとうございます」


それを感じていたのは凌太も同じで
真っ直ぐと見つめて、お礼を言っていた。


「……お前がそんなだと、気持ちわりぃ」


照れからなのか、押尾さんは笑いながら一言そう言うと、ヒラヒラと手を振って一人スタジオの中へと入ってしまった。


取り残された私と凌太。

流れる沈黙の中の気まずさ。


凌太は確かに、私を迎えに来てくれたけど
まだまだ真意は掴めていない。


離れるなと言われたって
凌太の気持ちは聞いてないから……。


「玲奈」
「……何?」


「ごめんっ!!」


凌太は、私に向かって、深く頭を下げた。
 
< 296 / 301 >

この作品をシェア

pagetop