好きになんか、なってやらない
 
「会社に行くって嘘ついて……ごめん。
 玲奈が悪い気分になると思って、美空に会うこと言えなかった……。
 いや、そもそも、美空の私物をいまだに持ってたことのほうが最低だよな。しかも会いに行くなんて……。
 本当にごめん」


初めて見る、弱気な凌太。

いつも俺様で、意地悪で、自信家な凌太は、
どんなことがあっても人に弱さを見せない。

余裕があって、済ましてて、とことんムカツクやつで……。

でも……


「うん……。
 でも……仕方ないんじゃないかな……。

 形見だったんでしょ?美空さんのお母さんの……」

「ああ。……ってか、知ってたんだな」

「さっきね。
 ……私、美空さんに戦い挑んできちゃった」

「は?」


予想外の言葉だったのか、いっきに目を丸くさせる凌太。

驚く凌太に向かって、イタズラな笑みを向ける。


「負けないって……。凌太を想う気持ちは、美空さんに負けないから絶対に諦めないって……。
 思いきり喧嘩吹っかけてきちゃったの。というよりは、喧嘩を買ってきたって感じかな。

 ……美空さん、私が思っていたよりも、ずっとカッコいい人だった」

「……そっか」


第一印象は最悪だった。

ころころ表情を変えて、その姿が滑稽に思えて……。
だけどそれは、人に好かれようとしている努力。
彼女はいつだって、上を目指して頑張っている。


だからきっと、
何もできずに立ち止まっている私とは正反対に見えて
羨ましい反面、素直に尊敬出来なかったんだ。
 
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