好きになんか、なってやらない
「お願いします」
乗り込んだタクシーに、すぐに場所を伝えて発進してもらった。
ふと振り返った先には、どことなく気まずそうな顔をした岬さんが見送っていて……
「……何やってんの、私……」
ドキドキと高鳴る鼓動を、ぐっと手のひらで押さえつけた。
ちょっとでも油断すれば、すぐこれだ。
男の人は簡単に触れたがる。
好きという言葉の先には
欲望が隠されていて
どちらが本心かを見極めないといけない。
こんなんで、絶対に振り回されないんだから……。
「何やってんだ、俺……」
去っていくタクシーを見送りながら
まだ残る温もりの手のひらを見つめ、凌太はつぶやいた。