好きになんか、なってやらない
4章 本当の目的
「おはよーございまーす」
フロアに響く、一つの声。
いつもなら全く気にならない声に、なぜか今日だけはピクリと反応してしまった。
「凌太さん、おはよう!」
「おはようございますっ」
「おはよー」
私とは別の、黄色い声が彼に向かって次々と挨拶が返される。
そんな彼のほうへ目を向けたけど、岬さんは声をかけてきた人たちへ対応していたので、私の視線なんかに気づいていない。
だけどそう思っていたのは一瞬で、彼が自分の席へ着こうとした瞬間、上げられる視線。
バチッと目が合ってしまった。
岬さんは一瞬だけ驚いた表情を見せたけど、すぐに微笑んで手を振ってくる。
そんな彼の対応よりも、自分が岬さんへと視線を送っていたことをバレたほうが恥ずかしくて、手を振りかえすこともせずにパソコンへと視線を変えた。
やばい。
さすがに感じ悪かったかな……。
少しだけ時間を置いて、もう一度顔を上げたけど
隣の席の人に声をかけられていた岬さんは、すでに私のほうなんかは見ていなかった。
また何やってんだ、私ってば……。
「はぁ……」
「どうしたの?朝からため息ついて」
「え?なんでもないよ」
「ふーん?」
少し挙動不審になっていた私に、真央が不思議そうに尋ねてきた。
でも言えるわけない。
ほんの少しだけ、岬さんを意識してしまっていたなんて……。