好きになんか、なってやらない
 
「ちょ……調子に乗らないでくださいっ!」
「あ、おいっ……」


これ以上、何かを突っ込まれるのが嫌で、慌てて給湯室から出た。


なんでだろう。
いつものように思いきり毒を吐けないのは……。

油断も隙も見せたくないのに
うまくかわす言葉も、威嚇する言葉も出てこない。


あんなたった一言で、ふらっと揺れ動く自分が嫌だ。




「忘れ物」
「あ……すみま、せん……」


思いきり逃げてきたのに、給湯室に忘れてきた、淹れたばかりのコーヒー。

岬さんがそれを持ってきて、わざわざ私の机まで来た。


「結構可愛いとこあるのな」
「…っ」


周りの人には聞こえない、小さな声で囁かれ、またドキッとしてしまう自分。

振り返る頃には、すでに耳元から離れて
ニヤッと笑いながら人を見下ろしていた。


なんかムカつく……!!
 
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