好きになんか、なってやらない
 
「っつか、合コンに行ったとか、会社でバラすなよ」
「はいはい。今のお前は、伊藤さん一筋を演じてるもんな」
「そー。バレたら今までの努力が水の泡」


ドクン…と、心臓に衝撃を受けた瞬間だった。


聞いてはいけないような、そんな会話。


伊藤さん一筋を演じてる……。

演じてる……?


「どうなの?落とせそうなの?」
「んー……微妙」
「お、少し前より発展してんじゃん」
「ほんの少しな」


その答えを聞いて、カァッと顔が熱くなる。

今日の私が、岬さんを意識してしまっていたのは、向こうから見てもお見通しで……。
それが無性に恥ずかしい。


「お前言ってたもんなー。
 自分をあそこまで意識しない相手は初めてだって。
 何が何でも、自分に落としてやるってな。本気じゃないのに、本気のふりして口説いて」


ありえない言葉を吐かれた、柿本さんからの言葉。


ドクンドクン…って、心臓が鳴り響いてる。


だけどこれが真実。
岬さんが私に近づいていた本当の理由……。


毎日私に近づいてくるのは、私を好きだからじゃない。
自分に媚びない生意気な女を、ただ気に入らなくて落としたかっただけなんだ……。


「お、来た来た」


一瞬にして目の前が真っ暗になったところに、私たちの待つホームへ来た電車。

ガタンゴトン……と、騒音が鳴り響き、二人の会話が聞こえなくなった。
 
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