好きになんか、なってやらない
やがて電車は停まり、目の前の扉が開く。
二人は当たり前のように電車に乗り込むと、帰宅ラッシュを迎えていることもあり、座ることなくドア付近に立った。
乗るはずだったその電車に、当然足が進むわけもなく、ただ見つめる目の前の電車。
すぐそこには、意識しかけていた、大嫌いな男が乗っている。
「ドアが閉まります。ご注意ください」
アナウンスが聞こえ、閉まり始めるドア。
だけどそれと同時に、会話に夢中になっていた岬さんがふとホームへと視線を送った。
「玲奈っ……」
「……」
私の存在を見つけ、驚きの表情で名前を呼ぶ。
だけどすぐにドアが閉まり、どうすることも出来ない体でドアをドンと叩いている。
冷ややかになった視線。
それだけを岬さんへ送り、ちょっとでも意識してしまった自分を戒めながら、敵意を込めて睨んだ。
私はからかわれていただけ。
落としてやろうと、まるでゲームの対象になっていただけ。
だから絶対に、あんな男なんか好きにはならない。
プシューッという音とともに、電車は動きだし、
ドアの向こう側で何かを叫ぶ岬さんをただ見送っていた。
悪いのは自分。
軽い男を信用してはいけないと、あれほど分かっていたのに、
ほんの少しだけ心を許しかけていたのだから……。