好きになんか、なってやらない
周りの人は知らない。
岬さんが私に付きまとっていた、その本当の理由を……。
ただ今週は、岬さんは外回りをすることが多く忙しそうに見えて、
その理由で、あまり私のところに来ないと思われていただけだった。
「凌太さん、玲奈と進展ありましたか?」
「んー。全然ないかなー。玲奈ちゃん、手強くて」
にこにこと微笑みながら、そんなことを言ってのける岬さん。
そもそも、私になんか最初から興味ないくせに。
私が岬さんを相手にしないから、むきになってただけのくせに。
口に出てしまいそうな感情をなんとか押さえつけて、その会話には聞こえないふりをした。
「じゃあ、いい加減あたしにしちゃいましょうよー」
「俺に香織ちゃんは勿体ないよ」
「そんなことないですって」
きゃはきゃはと笑いながら、お酒に手を伸ばしているあの輪。
キャバクラかよ。
と内心突っ込んで、目の前のビールを飲み干した。
「真央、それ手をつけてないんなら、こっちにちょうだい」
「え?あ、うん」
もうこうなったら、飲んでないとやってられない。
どうせここは、先輩方々が多めに出してくれるんだから、とことん飲んでやる。
「もしかして、めっちゃ荒れてる?」
「知らない」
ようやく私の異変に気付いた真央の問いかけも、適当に返して一人ヤケ酒をしていた。