好きになんか、なってやらない
 
揺らぐことのない瞳で、彼を見据え、
二人の間だけ空気が変わったようにさえ感じた。


ほんの少しだけ、岬さんの眉がピクリと動いて、パッと私の手を離した。



「冷静すぎてムカつく」



吐き出された不服な言葉。

そう感じるくらいなら、もうこれ以上関わらないでほしい。


「まだゲームは続いているんですか?」


私を落とす、という……。


「べつに。そんなのもうどうでもいいし。
 っつか、バレた時点で絶対になびかねぇだろ」

「バレなくても好きになんかなりませんよ」

「嘘つけ。少しだけ動揺してたくせに」

「動揺なんかしてません」

「ふっ……。今、ピクッてなった」

「なってないっ」

「あ、敬語もなくなってるし」

「……」


うかつにも取り乱してしまった自分。

ハッとしたときには遅い。
岬さんは、私を見て、嬉しそうに笑っている。


「その顔。今は、玲奈の鉄の面が崩せるだけでいいの」


そう言って、さらに勝ち誇ったような顔で笑われた。
 
< 58 / 301 >

この作品をシェア

pagetop