好きになんか、なってやらない
 
雨って、今日降るなんて言ってたっけ?
傘とか、何もないんだけど……。

つい最近まで、私もデスクにビニール傘を一本置いていた。
だけどそれも、急に降られた雨のせいで、この前使って家に持って帰ってしまったのだ。


「傘持ってねぇの?」
「……はい」
「うわー。悲惨ー。今日はずぶ濡れで電車乗るんだな」
「……」


私の返事を聞いて、面白そうにそんなことを言ってくる岬さん。

その言い方が、すごいムカツク。


もしも、岬さんのゲームを知っていなければ、きっと彼は、私を口説くために傘に入ってく?なんて発言をしていただろう。
そして私も、拒みつつも、きっと一緒に帰ることを承諾していた。

だけど彼の本性を知ってしまった以上、岬さんが私にそんな優しさを見せることはなくて……。


「べつにあとは帰るだけだからいいんです。じゃあ、私は仕事に戻るので」


カチンときたので、そっけなく言葉を返すと、岬さんと柿本さんがいる休憩室をあとにした。



廊下から見える、窓の外。
そこは結構な本降りの雨が降り注いでいた。


救いの手を借りようと、真央の席を見たら
真央はすでに帰ってしまったようで……。


はぁ……。これは本当に、濡れて帰るしかないや。


諦めて、とりあえず目の前の仕事を再開することにした。
 
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