好きになんか、なってやらない
結局止まなかったか……。
雨が止むのを待ちながら、必要以上に仕事をして、遅くまで残っていた。
だけどそんな残業時間は虚しく終わり、雨が止むことはない。
すでにほとんどの人が帰っていて、人が少なくなったエントランスで夜空を見上げた。
「はぁ……」
思わず漏れたため息。
覚悟を決めるしかない。
「伊藤さん、今帰り?」
「あ……はい」
後ろからかけられた言葉。
振り返ると、そこには川辺さんがいた。
「傘は?ないなら入ってく?」
「え?」
川辺さんは、大きめの黒い傘を持っていた。
おそらく、ちゃんと天気予報を見て、朝会社へと持ってきたんであろう。
二人入るには十分すぎる大きさ。
だけどやっぱり、入れてもらうには抵抗がありすぎる。
だってこの前、
(俺は別に、そんな地味な子、興味ねぇから)
人を、飲みにだったり、家にだったり誘っておきながら、あんな言葉を吐いていた人だから……。