好きになんか、なってやらない
「あ、もしかしてこの前の言葉気にしてる?
ごめん。あれはなんていうか、岬がいたからああいうしかなくて……。
俺の本心は、前半の岬がくる前のほうだから」
「……」
慌てて弁解される言葉。
嘘を言っているようには見えない。
けど、やっぱり信じるのは無理。
「……すみません。待ち合わせしてる人がいるので」
咄嗟についた嘘。
だけどこれが、一番の断り方だと思ったから。
「あ、そっか。じゃあ、気を付けて帰りな」
「すみません……ありがとうございます」
「いや。おつかれ」
「おつかれさまでした」
川辺さんも、これ以上何か言ってくることはなくて、雨が降る中、黒い傘をさして夜の闇へと消えていった。
「私って、やっぱり最低な女だな……」
自分を自嘲するように吐き出した言葉と同時に
遠く向こうから、バシャバシャと何かが近づいてくる音がした。
目を凝らした闇の先には……
「はぁっ……はぁっ……」
「岬さん……」
傘をさしながら、なぜか慌てて会社へと戻ってきた岬さんの姿があった。