好きになんか、なってやらない
「胸くそ悪くて、帰ってられねぇっての」
「あの……全然意味わかんないんですけど」
「いいから入れ」
「ちょっ……」
グイと引かれた腕。
大きく広げられた傘に、私の体は覆われてしまい……
「ほら、帰るぞ」
「え……」
意味が分からないまま、戻ってきたばかりの岬さんの傘に入り、駅へ向かうことになった。
全然意味が分からなくて……
だけど歩きながら、頭が少しずつ答えを導きだしていく。
ずっと前に帰ったと思われる岬さん。
だけど慌てたように会社に戻り、私を見つけ傘に入れる。
それは私が、今日傘を持っていないことを知っていたから……。
「わざわざ……私のために戻ってきてくれたんですか……?」
そんなわけない。
信じられない。
半信半疑と、自惚れの答えが、言葉となって彼に投げかけた。
「……だからそう言ってんじゃん」
私を一瞬だけ見た彼は、バツが悪そうに眼を逸らし、雨が降り注ぐ前を見据えていた。