好きになんか、なってやらない
 
岬さんの肩は、傘を持っていたのにだいぶ濡れていて、
いつもきっちりセットしている髪も走ってきたせいで乱れている。

ズボンの裾もびしょ濡れで、
いつも余裕のある涼しそうな顔の横には、汗の痕。


なにそれ……。
いつも人の反応見て面白がって、
ムカつくことばっか言うくせに……。


これも計算かもしれない。
生意気な後輩を振り回す、姑息な手段。

でも……


「ったく……なんで5本も電車見送らないとなんねぇんだよ……」


ぶつぶつと、雨の音でかき消されそうな声で文句を垂れる岬さんは
いつも目の前で見ている岬さんとは別人のようにも見えて……


「誰も迎えに来てほしいなんて言ってませんよ?」

「っ……あーそうだよな!ほんっとかわいくねぇ」


つい、いじめてしまいたくなって
追い打ちをかける言葉を言い放った。

だけどね。



「ありがとうございます。助かりました」

「……」



彼の迎えが、胸の奥がきゅっとなるほど嬉しいと思ってしまう自分がいるのも確かで
ぶつかる肩を意識しながら、素直なお礼も続けた。
 
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