好きになんか、なってやらない
幸いにも、駅はすぐそこで
たいして濡れることなく着いた電車。
さらに電車がちょうど来ていたので、すぐにそれに乗り込み、岬さんともう一度駅でバッティングすることを避けた。
ドアが閉まって
電車が出発しかけた瞬間、
駅の階段を下りてきた岬さんと目が合って……
「……」
キッと睨んで、
遠ざかる岬さんを威嚇し続けた。
許せない。
ムカつく。
腹立つ。
胸の中が燃えるように熱くなって
岬さんに対する怒りが爆発してしまいそう。
だけど……
「あ、れ……?」
電車が地下のトンネルに入って
自分の顔がうつったとき驚いた。
そこにうつった顔は、決して怒りにまみれた顔じゃない。
ほんのり頬を染めて
瞳をうるませ、丸くさせている顔だったから……。
トクントクン……
かすかに感じる、鼓動の音。
事故でされたキスよりも、温かみを帯びた一瞬のキス。
違う。
そんなんじゃない。
心の奥底で生まれかけている小さな灯りに
私はまだ、気づかないふりをした。