好きになんか、なってやらない
 
「……べつに、怒ってもないし、なんとも思ってない」


震えそうな唇を必死に動かし、
冷静を装って言葉を続けた。


「卒業してから、陽平のこと思い出したこともないし、今の私にとってはどうでもいいから。
 だから今更、そんな昔のこと謝らないで」

「玲奈っ……」


淡々と言葉を並べ、
冷ややかな視線を一度だけ送ると、懇願するような目で見つめてくる彼の横を通り過ぎた。


心臓が、ドクドクとなっている。
指先が、ワナワナと震えている。


恐怖?
怒り?


未練……?


なんとも言えない感情が、心の中を吹き荒れていた。




「玲奈、今日はうちらお金払わなくていいって!」


席へ戻ると、いい感じの酔った真央が上機嫌で教えてくれた。


「後輩が自分たちだけだと、いろいろ得しちゃうよね」
「……そうだね」


タダで今日のお酒を飲めた。
そう思うと嬉しいはずなのに、私の心はここにあらずで……


「どうかした?」
「……ううん、なんでもない」


不思議そうに見つめる真央に、笑顔でごまかして答えた。
 
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