好きになんか、なってやらない
店を出て、8人の男女がゆっくりと歩き出す。
二軒目へ行く足取りだ。
だけど私は、行くつもりはない。
真央にだけ、もう帰ることを伝え、周りの人には気づかれないよう一人進路を変えた。
お礼はまた後日言おう。
今は「一人で帰る」と言って、場の空気をしらけさせたくなかった。
それになんとなく、岬さんに会いづらい。
後ろから、ワイワイと騒ぐ先輩たちの声を耳に、
駅へ向かって行く自分の足。
だけどその体が、グンと何かに引かれた。
「玲奈っ……」
一瞬だけ、期待していたような気がした。
自分の手を引く手。
追いかけてきてくれる存在。
パッと明るくさせてしまいそうな顔をギュッと引締め、振り返ったそこには……
「ごめん。やっぱりもう少しちゃんと話したくて……」
「……陽平…」
私の期待していた彼とは、別の存在だった。