好きになんか、なってやらない
「騙されてたんです。彼に。
憧れていた彼から告白されて舞い上がって……。
順調に恋愛をしてると思ったら……彼は私を遊び相手としていただけ。
逐一、友達に私とのこと報告して、簡単な女だの、すぐにヤラせてくれただの……。
下手したら……私は彼の友達の間でレンタルされるような女になっていたかもしれなかった」
思い出したくない過去の出来事。
高校3年の18歳の夏。
忘れ物をして、取りに戻った教室。
そこにはまだ、彼の姿があって……
《ちょっと甘い言葉吐けばすぐヤラせてくれるよ、アイツ》
《マジ!?じゃあ、今度俺にも貸してよ》
《ああ、わかったわかった。その代わり、5千円な》
《マジかよ!たけー!》
話されている内容は、自分のこと。
まるでレンタルビデオのような扱いで話されている。
もしあの時、彼の本性に気づいていなければ私は……
「玲奈。震えてる」
「ぁ……」
言われて気が付いた。
両手を握る私の手は、カタカタと小刻みに震えている。
大好きで信じていたはずの彼に裏切られたあの悲しみ……。
「彼は勉強ができて……スポーツ万能で……人当たりも良くて……。
誰もが憧れる完璧な人でした……。
そんな人が私を好きになるはずなんてないのに……分かっていたのにっ……」
「もういいから」
「っ……」
自分のバカさを吐露する私を
岬さんは優しく包み込むように抱きしめた。