好きになんか、なってやらない
「お疲れ様です」
「ん?おー、お疲れ」
私が、わざわざ岬さんのもとまで来たことが意外だったのか、一瞬だけ驚いた表情を見せた岬さん。
その表情には気づかないふりをして、さっさと本題へと入った。
「岬さん、今からランチに行けます?」
「え?まあ……」
「じゃあ、行きましょう」
「は?あ、うん」
いきなりの誘い。
周りの人も、ちょっとだけぽかんとしている。
それも当たり前だ。
私は、社内でも一切岬さんをスルーしている人間。
そんな私が、自ら岬さんを誘っているんだから。
岬さんを後ろに引きつれて、自分のデスクの前で待つ営業部のもとへ。
二人は岬さんを目の前にして、きゃっきゃ黄色い声をあげている。
「大丈夫だって。じゃあ、行ってきなよ」
「え?」
「は?」
私の声掛けに、きょとんとさせる三人。
そんな三人を一度見やると、
「私はまだ、やらないといけない仕事があるので。
岬さん、この子らお願いします」
「……そういうことかよ。わかったわかった」
岬さんは目を細めて若干苛立ちを見せたけど、すぐにいつもの笑顔を見せた。