好きになんか、なってやらない
 
「なんですか?」


まだ周りからにぎやかな声が聞こえる中、電話を耳に当てて相手に尋ねた。
明らかに、不機嫌な声色で。


《昼間、やってくれたじゃん》


相手も私に負けず、不機嫌な声だ。

昼間というのは、ランチを営業部の子たちと食べるよう仕向けたことだろう。
だけどそれで怒るのは筋違い。
だって……


「嬉しかったんじゃないんですか?女の子とお昼ご飯を食べれて」
《……じゃないから、今こうやって文句の電話入れてんだけど》
「どうして嬉しくないんですか」


もともと、いつも女をはべらせていた岬さん。

私を落とすために、女遊びをやめたみたいだけど、今となってはやめる理由なんてどこにもない。
だから本来の姿に戻ったって、全然かまわないのだ。


《こっちが聞きたいくらいだよ。だけどなんか、すげぇムカついたの。お前にはめられたみたいで》
「……ああ。私に仕向けられたから怒ってるんですね」


岬さんにとって、私は腹立つ対象らしい。
だから余計なことをされたことが、きっと気に入らないのだ。


「すみません。じゃあ、これからは自分たちで誘うよう伝えておきます」
《………ん》


なんとなく、腑に落ちない生返事。

電話だと、相手の表情が読み取れないからイマイチ分からない。
 
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