SEL FISH
聞こえたのか聞こえなかったのか、分からない。だから返事がなくても気にしない。
電車の窓の外には桜並木が見える。
そこに花は無かった。
「アキの言う通り……」
「はい?」
「桜、全然咲いてなかった」
アキはあたしの膝の上に乗っていた鞄を持っていき、少し黙った。
うちのマンションの近くの梅は咲いていたのになあ。
「まだ分からないよ、今週の日曜日には暖かくなって満開になるかもしれないし」
「その確率は低そう。明日も雨降るってよ?」
「明日にならないと分かんないよ」
初めて、あたしは自分が落ち込んでいることに気づく。それに驚いてしまった。