SEL FISH
堂本さんの頭の中で何の納得が成されたのかは分からない。アキが笑顔で首を傾げた。
「なにかな?」
「いや、なんでも」
「なに? 二人だけの暗号?」
「あ、猫」
立ち上がった堂本さんが向こうを歩く黒い猫を追いかける。
捕まえられないよー、と思ったけれど言う前に背中は小さくなっていた。アキが笑う。同じことを思ったのかもしれない。
ふわりと風が吹く。
花粉症のナッコちゃんは辛そうだけれど、やっぱり日本の春は良いと思う。
「春眠暁を覚えず」
「処処啼鳥を聞く、夜来風雨の音、花落つること知る多少」
続きを呟く。