SEL FISH
高校ではプールがないので、塩素の香りが懐かしい。
「いのりちゃんのこと、嫌いなの?」
「嫌いだったら一緒にファミレス行ったりしないでしょ、堂本さんとも」
「アキくんはさあ!」
はぐらかす答えに、つい大きな声を出してしまった。すれ違った小学生がこちらを振り向いて「痴話喧嘩だ」とこそこそ話している。
痴話喧嘩じゃないけれど。
驚いて固まった彼は、足も止まった。
私は彼の方に体を向ける。
「誰かに自分を見せるの、ちゃんとした方が良いよ! このまま表面だけ付き合ってたら、いのりちゃんだって愛想尽かせちゃうかもしれないよ!」