SEL FISH
母親というものがあまり身近じゃないから、そういう距離感が分からない。
テレビを消して、勉強を再開して、夕方になって着替える。
洗濯物を取り込んでいると、玄関の鍵が開く音がしてママが帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま、どこか行くの?」
あたしの格好を見て首を傾げる。返事をするより先にキッチンへ行って手を洗い、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
うちのママがキッチンにいるのはそれくらいだ。他に用がない限り、近づかない。
「夏祭り行ってくる」
「彼氏?」
「友達?」
「浴衣着ていけば良いじゃない」
ベランダから戻ると、ママがソファーから立ち上がる。