SEL FISH

ずんずんとファミレスを出た後、横断歩道の前で止まった。

「あたし、こっちから帰る。じゃあね、アキと堂本さん」

手が緩まる瞬間を見逃さないように、いのりちゃんがアキくんの手から離れる。ひらひらと白い掌を見せて、夜の中に溶けていく。

追いかけないの、と言いそうになったけれど、いのりちゃんの後ろ姿をぼーっと見ていたから止めた。

無理な笑顔を作ってこちらを向く。

「ああいう時、しつこく言うとマジギレされちゃうからさ」

そこまで分かっていて、どうして名倉くんのことを正直に言えないのかが分からない。

それは私の言える問題じゃないのかもしれないけれど。



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