SEL FISH

ぐっと引っ張ったけれど、アキはその手を離さない。

「や、やだ!」

「祈璃、ちょっとだけ話聞いて」

「髪ぼさぼさだし、着替えてないもん!」

自由な片手で布団を被った。静かになったアキが小刻みに震えている。
繋がれた手から振動がくる。

「どんな祈璃でも可愛いよ」

「そんなの知ってる!」

声から笑っているんだと分かった。

「それなら顔見せて」

あたしは最近アキに上手く扱われている気しかしない。
仕方ない、と腹を決めてむくりと起き上がった。

アキは制服を着ている。鞄があるってことは学校帰りなのかもしれない。



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