SEL FISH
あたしには殆ど見覚えのないパパの死を、ママは一人で乗り越えた。
だから、大丈夫だ。あたしはちゃんと生きていく。
自分に嘘を吐かずに真っすぐ。
「祈璃、そこで止まって。笑って」
ジャンが嬉しそうにこちらに手を振る。
ママがレンズを覗き込んだ。パパの形見だと教えられたインスタントカメラ。
足を止める。
風が吹いた。
写真の撮る音が聞こえて、あたしは二人に近づく。
「うわあ、ぶれぶれだねえ」
けらけら笑うジャン。
「本当ね。仕方ない、こっちでもう一回撮ろ」
使い捨てのカメラを鞄から出した。
end.
20151005