SEL FISH
「アキいいい」
細い腕が首に絡みつく。泣きじゃくりながら名前を呼ばれた。
「はいはい」
「悔しい、あの馬鹿男、こっちから願い下げだもん……バーカバーカ!」
「祈璃、ちょっとコード踏んでる」
「優しくしてくれてたのも気付かせないようにだって思ったら……そういえばアキのこと知ってるって言ってたよ」
コードの上から退いた。
俺から離れた祈璃は、頬に涙の跡はあるもののケロリと泣き止んでいた。
傷付くくらいなら、止めときゃ良いのに。
最初の頃、何度もそう思った。でも、傷付いても怒っても祈璃は帰ってきた。