SEL FISH
後ろで布の擦れ合う音に振り向く。
「祈璃、そこで寝ない」
テレビに背を向けてシーツに包まる。
「寝るんならナツのベッドで……」
「アキ」
「なに?」
「あたし、もう恋人いらない」
どこかの歌みたいな台詞。笑ってみようかとも思ったけれど、その顔を見て止めた。
「今度、乙女ゲーム買いに行くか」
「……うん」
瞑った目から涙が零れている。女に水をふっかけてゾンビを倒して、怒りを発散させて。
残ったのは、悲しみなのか。
呼吸が寝息に変わる。静かに、その瞼に口付けを落とした。
end.
20150226