SEL FISH
「もう少ししたら起きるから大丈夫」
それだけ言って、柵を飛び越えてこちらへ来た。
一歩だけ下がる。警戒心が身体を乗っ取っている。
「……三芳くんって、いのりちゃんの恋人だった?」
少し目を伏せて、彼は歩き出す。知ってか知らずか、私の家の方向。
「そう、この前別れた」
「いつもこんなことしてるの?」
明らかに、あれは彼が頼んでやっているものだ。
歩みを止めずに、答えが返ってくる。
「してないしてない。祈璃が何人と付き合ってきたと思ってんの。俺が破産するよ」
笑ってるけど、笑ってない。