召喚女子高生・ユヅキ
鼻をかすめる青草の匂いに、頭がくらくらする。
東雲の衣に焚きしめられた香だ。
初めての状況に柚月はわけがわからず、降参した。
「暴れない! もう、しないから! 耳! 耳は、やめてッ!」
泣きそうな声で懇願した。
東雲が喋る度に吐息が耳をくすぐる。
力が抜けて、立てなくなりそうだった。
「申し訳ありません、参議(さんぎ)殿。僕の連れが何かやらかしたようで」
「東雲殿……ッ!?」
抱きついた姿勢のまま、東雲は話し始める。
男が浮かべる驚きの表情で、ますます羞恥を煽られた。
柚月がじたばたと身動ぎしても、腕の拘束は解かれそうにない。
一方の男は、合点がいったように目を瞠った。
「そう、か……おまえの連れということは【彷徨者】だな!?
この女のせいで、私は非常に不愉快な思いをした!
何のための、治安維持だ!? 化物を飼うなら、しっかり躾しておけッ!」
怯えと不安。
込み上げてくる感情を拒絶するような怒りに、柚月は一瞬だけ胸が痛んだ。
【月鎮郷】では、こうあからさまに罵られることは少なくない。