EGOISTIC憎愛デジャ・ビュ


†††


 逃げられると追いかけたくなる。

これが魔冬氷河(まとう ひょうが)十歳の今の心境だ。

やや垂れ気味な目で彼は獲物を見つめた。

ただでさえ色っぽい流し目なのに、左目の下にある泣きぼくろのせいで更に誘惑的な色気が垂れ流し状態になっている。

恐るべき十歳。

彼の弟にも同じ位置に泣きぼくろがあるが、こうはならない。


「なぜ逃げる。こちらへ来い。月那(つきな)」


自分の名前が呼ばれ、猛獣に睨まれた子兎よろしくビクリと肩を震わせる少女。

まだ五歳の月那はタタタと駆け出すと、母親の庇護を求めるように氷河の弟――千夜(せんや)に抱き着いた。

「……だからなぜ千夜にばかり懐くんだ」

「アニキ、そんなカリカリすんなって。アニキには他の子いるからいいじゃん」

「そいつだけ甘えてこないのが気に食わん」

魔冬家には人間が多く住んでいる。

魔冬家当主である氷河の父が共存主義者なため、闇市場で不当に扱われている人間を見つけては買って使用人にしているのだ。


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