EGOISTIC憎愛デジャ・ビュ


 氷河が餌でもない人間を殺した。

このことはすぐ魔冬家の当主、魔冬永久(とわ)の耳に入った。

「氷河。私が人間との共存を望んでいるというのに、とんでもないことを仕出かしてくれたな」

「すみませんでした、父上」

氷河の父、永久が息子とよく似た色っぽい顔に激しい怒りをにじませる。

畳にきちんと正座して謝罪する氷河を横目に立ち上がると、彼は床の間に飾ってある日本刀を手にした。

スラリと鞘から引き抜き、切っ先を氷河の額に突き付ける。


「死して償うか」

「……それでも構いません」


後悔はしていない。

覚悟を決めた氷河が目を閉じた時だった。


「待たないか、永久」


当主の部屋に魔冬の大ボス、雪風が入って来た。

「おじい様…」

「父上」

雪風はそっくりな親子を面白そうに眺めながら話し出した。

「ことの子細を耳にしたんだが……単なる氷河の気まぐれではないようじゃないか」

「父上、何をおっしゃりたいのですか」

「だから、物騒なものを振り回してないで、仕置き部屋に軟禁くらいで勘弁してやれ」

この家の真の主、雪風にそう言われてしまえば従わないわけにはいかない。

永久はしぶしぶ刀を鞘におさめた。

「…わかりました。氷河、お前に罰を与える。仕置き部屋に入っていろ。私が許可するまで出ることを禁ずる。いいな」

「承知致しました」

父に頭を下げながら氷河は心の中で祖父に感謝した。





< 29 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop