EGOISTIC憎愛デジャ・ビュ
氷河が餌でもない人間を殺した。
このことはすぐ魔冬家の当主、魔冬永久(とわ)の耳に入った。
「氷河。私が人間との共存を望んでいるというのに、とんでもないことを仕出かしてくれたな」
「すみませんでした、父上」
氷河の父、永久が息子とよく似た色っぽい顔に激しい怒りをにじませる。
畳にきちんと正座して謝罪する氷河を横目に立ち上がると、彼は床の間に飾ってある日本刀を手にした。
スラリと鞘から引き抜き、切っ先を氷河の額に突き付ける。
「死して償うか」
「……それでも構いません」
後悔はしていない。
覚悟を決めた氷河が目を閉じた時だった。
「待たないか、永久」
当主の部屋に魔冬の大ボス、雪風が入って来た。
「おじい様…」
「父上」
雪風はそっくりな親子を面白そうに眺めながら話し出した。
「ことの子細を耳にしたんだが……単なる氷河の気まぐれではないようじゃないか」
「父上、何をおっしゃりたいのですか」
「だから、物騒なものを振り回してないで、仕置き部屋に軟禁くらいで勘弁してやれ」
この家の真の主、雪風にそう言われてしまえば従わないわけにはいかない。
永久はしぶしぶ刀を鞘におさめた。
「…わかりました。氷河、お前に罰を与える。仕置き部屋に入っていろ。私が許可するまで出ることを禁ずる。いいな」
「承知致しました」
父に頭を下げながら氷河は心の中で祖父に感謝した。