吸血鬼くんの話、
「ひかりー。……?ひかり?」
さっき見かけた場所にひかりはいなかった。
回りを見渡してもそれらしき人がいない。
「見失ったのか?」
満月の問いに分からないと答える。
あの子はなにも言わずに姿を消したりしないはず…。
「どこに行ったんだよ…」
不安ばかり頭に浮かぶ。
体調は良さそうだったけど一人で行動できるとは思えない。
「あの…お客様…」
キョロキョロしていると気の弱そうな店員さんが話しかけてきた。
「俺?…なんの用?」
店員さんに聞くと、おどおどした小さい声で
「黒猫の子供様をお連れのお客様にと、言伝てを頼まれまして…えっと…『娘を返して欲しければルーニャのところまで来なさい』と、伝えて欲しいと…」
と、懐かしい名前からの伝言を伝えられた。
ルーニャとは、同じ施設にいた女の子だ。
ことあるごとに俺にちょっかいを出してきた。
俺はあまり好きではない。
「……分かった。ありがとうございました、伝えていただいて…」
とりあえず店員さんに礼をいって、満月の服を買った。

「ルーニャ…と言ったか?その子の居場所はわかるのか?」
一旦家に帰る。
満月はさっそく服を着替え、まともな格好になった。
「知ってるよ。ルーニャは同じ吸血鬼…って言ったら怒りそうだが…ま、どうせいつもいる場所にいるだろ」
棚を開け、瓶をいくつか取り出す。
ひかりの薬だ。
「ひかりを迎えにいくぞ」
満月を連れて、また部屋を出た。
でもなんで、ひかりをさらったんだろう。
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