吸血鬼くんの話、
黒々しい、背の高いビル。
その一角に、ルーニャの仕事場がある。
不治の病と言われる病気を治す、吸血鬼しかできないことをやっている。
「江口 明様。お待ちしておりました」
ビルの入り口には、小さな子供が立っていた。
白のパーカーと迷彩柄のズボン。
髪は混じりけのない黒髪で、瞳もうっすらと緑色に見えるけど、大体暗い色。
「ルーニャはここにいるか?」
この子と面識はないが、俺を待っていたのならルーニャの関係者だろう。
俺の予想は当たり、小さな子供は首肯し
「ご案内いたします。ルーニャ様は大変機嫌が悪いのでご注意を」
と言って、ビルの中に入っていく。
「……まだ、元気だといいな。明」
不安そうな顔を隠し、呟くように希望を言う。
俺は安心させたくて、満月の手を握った。
「大丈夫。ひかりを信じろ」
俺の手の方が、震えている気がした。

「こちらになります」
小さな子供はそう言うと、指定した扉とは別の部屋へと入っていった。
深いため息を吐き、扉を開ける。
「あ!あきらだぁ!ちゃんと来てくれて嬉しいよぅ!」
耳にキーンと来る高い声。
ルーニャの声。
「用件はなんだ?ひかりはどこへやった?」
早く帰りたい。
ルーニャは俺の声には答えず
「うふふ…ルーニャね?ずーっと待ってたの。明がー、私のところに来てくれるの!でもー。待てなかったから呼び出しちゃった!ごめーんね?」
そう言いながら俺に近づき、体を密着させる。
フリフリの服だから体の感触は分からないが、早く離れて欲しいと思った。
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