吸血鬼くんの話、
「満月ちゃん」
お皿を洗い終わった満月ちゃんは私のそばに座り、明の本を読んでいました。
私には難しくて読めなかった本ですが、満月ちゃんは読めるみたいです。
「……なんだ?何かあるのか?」
本から視線を移し、寝ている私を見つめています。
月のような青白い瞳。
光を反射させる真っ黒の髪。
夜を連想させる満月ちゃんは、現実味がなく触れれば消えてしまいそうな存在感。
「眠れないの。何かお話、聞かせて?」
年下の満月ちゃんに甘えるのもどうかと思ったが、彼は不思議な雰囲気で私の知らないことを話してくれそうな気がしたのです。
「……なら、一人の魔女の話を、してやろう」
満月ちゃんは本を閉じ、私の手を握りました。
その手から、なにも言わずに、聞いてほしいという思いが聞こえてきました。
「うん。聞かせて」
魔女、というのなら、シャルドネのことでしょう。
満月ちゃんが何を思ってその話をしようとしたかは分かりませんが、私は聞きたい思いで一杯でした。
「魔女には、好きな人がいたそうだ。
その男は、病気の妹のために町で働く毎日を送っていた。
魔女にとって、彼を救うのは簡単なこと。
だが、魔女はなにもしなかった。
魔女は彼を救うには名が知られ過ぎていた。
悪名高き『氷の魔女』の通り名が、彼女のものだった。
魔女は、彼に破滅を用意した。
彼がどんなに頑張ろうとも、妹を救うにはまだまだ足りなかった。
いつまでも終わらないのなら、終わりを与えてあげようと、考えたのだ。
魔女は彼に姫君の暗殺を命じた。
妹の命を救うのを条件に」
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