吸血鬼くんの話、
掠れた、風邪を引いてるような声。
黒猫はベッドに近づく。
「若い男を連れてきた。小僧だが、力は強そうだ」
黒猫が言うと、女の子は体を起こした。
艶やかな黒髪の薄幸な美少女、といった感じだ。
「満月、ありがとう。君は、そこにいるのかしら?」
藍色の瞳を開けるが、前を見据えたまま。
「彼女は目が見えんのだ。小僧、話してやれ」
黒猫がどこかから丸椅子を押してきて、座るよう勧めてきた。
「………江口、明だ。君の名前は?」
椅子に座りながら、聞いてみる。
女の子は俺の方に顔を向け、話す。
「明…ね。私はシャルドネ・ミリ・ルノワール。シャルドネと呼びなさい」
尊大な態度だけど、柔らかい雰囲気がある。
「シャルドネ。悪いが、俺の血をやることはできない」
名を呼び、血をやれないという。
シャルドネは眉を潜め、布団の中から銀色に光るナイフを取りだし、
「あら、痛いのは嫌いかしら?」
俺に向けて、投げてきた。
とっさに右手で掴んでしまい、血が滴り落ちる。
「俺は人間じゃない。吸血鬼だ。お前が普通の人間なら俺の血でも元気になれるが、魔女は別だ。協力できん」
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