孤独女と王子様
―カランカラン―

この店は静かだ。
なぜならお客さんは僕しかいない。

お世辞にも繁盛している店とは言えない。

今日は火曜日とはいえ、貸し切り状態。
ドアの向こうから現れたのは、かんべさんだった。

あらかじめ、マスターにはひとり来るかもと言っておいたけど、来て貰える自信は全くなかったから、驚いて一瞬言葉を失った。

かんべさんはまず、僕に向かって一礼した。

「お待ちしておりました。お越し頂きありがとうございます」

座っていた僕は立ち上がってかんべさんを出迎えた。
格好は先程の服装のままでエプロンを脱いだだけ。

『あ、あの、おひとり…ですか?』

繁華街の路地裏にあるこの店は、外の喧騒からは守られている。
それでも客がひとりもいない環境に、かんべさんは戸惑いを隠せないみたいだ。

「貸し切り…っていうのは嘘で、繁盛してないだけですよ」
『おい、剛、はっきり言うなよ』

マスターが苦笑いしながら僕に言った。
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