孤独女と王子様
『律子、お前は相変わらずの世話好きだな』
『ここは私のお店ですし、当然のことをしているまでですよ』

このふたりは、由依ちゃんの年齢の年数は会っていないはずなのに、どこか熟年夫婦のような雰囲気を感じる。

僕は舟さんの亡くなった奥さんにも何度か会っているので何だか不思議な気分だ。

思えば、この3人は、鍬形家という家柄さえ邪魔しなければ、家族として結ばれるべき関係なんだ。

『お前、健吾から聞いたんだろ?俺と律子、そして由依の事情』
「はい」

悲恋だ。

舟さんと律子さんは、思い合っていたのに親の体裁のために犠牲にされたんだ。

「でも、由依ちゃんがずっと父親に捨てられたと説明されていたことには、納得出来ないです」

そんな僕の言葉には、律子さんが答えた。

『仕方なかったんです。由依には父親に対する情を抱かせると、将来的に鍬形家にご迷惑をお掛けすると私が個人的に判断したのです。例えば、由依が"父親に会いたい"と言い出すことを、私は恐れたのです』
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