孤独女と王子様
確かにそうだ。
舟さんの言う通り、親の前で交わす会話ではない。

『分かった。剛さんと2人で話す。でも1つ言いたいの』

そう言うと由依ちゃんは椅子に寄りかかり後ろにやや重心をかけて両サイドにいる舟さんと僕が目線に入るような姿勢になった。

『私、お父さんの娘だけど、お父さんと一緒の思い出が何もない』
『うん』

由依ちゃん、舟さんのことを"お父さん"と呼べるんだね。

『でも、剛さんは自分の父親じゃないのに、お父さんとの思い出がたくさんあるんでしょ?ずるいよ。剛さんと過ごした時間、私も欲しい』

由依ちゃんは舟さんを見ていた目線を、僕に移した。

『剛さん、だから、お父さんとの思い出を、いっぱい聞かせてもらえる?』
「いいよ、いくらでも話すよ」

僕がそう言うと、由依ちゃんは満面の笑みで"ありがとう"と言った。

その笑顔は、僕の心に染みわたった。
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