孤独女と王子様
僕は日頃から宇梶さんにはある程度距離を置いてきたのは、こういうことが想定できたからだ。

『あら、今から社長気取りですか?私の父に言いつけて、現状を変えてもらうのでそのつもりで。あ、成瀬川さんの彼女とやらも、調べればすぐに分かることですから』
「どうぞ、ご自由に」

僕の事務的な言葉に苛ついたのか、去り際に僕を睨みつけたような気がする。
でも僕は既に事務室方向に体を向けた後で、宇梶さんの顔を見ていなかった。

まぁ、どちらでもいいや。

これで宇梶さんとは仕事がしづらくなったかも知れない。
けど、それ以上に由依ちゃんを守らなくちゃ。

"調べる"と宇梶さんは言っていたけど、事実を調べて何になるって言うんだ?

ケン兄さんが由依ちゃんのことを調べた時とは訳が違う。

調べた相手の心を動かせる器がない限り、調べたところでどうしようもないだろう。

そう考えたら、"父に言いつける"と言い放った宇梶さんの価値観に対して、少しばかり不憫に思った。
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