孤独女と王子様
『いえ、借りは作りたくないので、これくらいあれば足りますか?』

と、神戸さんが布製の使いこんだ財布から3000円を取り出しカウンターの上に置いた。

それにはさすがに僕も黙っていられず、

「どこまで君は、人の気持ちを信用できないんだ」

と、言い放ってしまった。

『ええ、信用していません。特に、あなたみたいな人の心を読む努力をしなくたってどうにかなる世界にお住まいの方とは、分かり合うこともないでしょう。CSの勉強、頑張ってください。では』

と、神戸さんはドアから出て行ってしまった。

カウベルの音が響かなくなって、暫く沈黙が続いた。

するとマスターから口を開いた。

『あの子は、人との付き合いを避けている。本が友達と言わんばかりにさ。でもさ、そんな彼女が、ここには来て貰えたってことは、まだ望みはあるんじゃないのか?』
「望み?」
『剛、お前はあの子のことが好きなんだろ?いくらあんな態度を取られても』

図星だった。
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