孤独女と王子様
「はい、わかば堂書店営業本部、神戸です」
"首都出版販売の柳井です"
「え?」

その名前に、私は少なからず動揺した。

けど、だから何?
相手は販売会社のただの営業さんでしょ?

"14時からのアポイントで天野さんとの打ち合わせで来ました"

「かしこまりました。2階にお上がりください」

柳井くんは至って落ち着いている。

そうだ。
私もちゃんとしなきゃ。

天野さんが会議室に柳井くんと先輩社員を通すと、私がお茶を持って行った。

どんな打ち合わせをしているのかは知らない。
柳井くんは私があのアパートを引き払ったことを知っているのかだけが気になった。

打ち合わせが終わり、会議室から彼らが出てくると、そのまま柳井くんは帰って行った。

そりゃ、そうだよね。
向こうは仕事で来ているんだもん。

私はそこからは気分を入れ替えた。
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