孤独女と王子様
次のイベントに向けて、出版社から受け取った資料を元に、出版社への進行案を作ることに没頭した。

夕方、マンションに帰ると、剛さんがキッチンで格闘していた。

あれ?
今日は金曜日だし、剛さんは仕事もあるからここには来ないと思っていたのに。

『おかえり』
「ただいま。どうしたの?」
『僕も炊事くらいは出来る旦那になりたくて』

剛さんは必死に人参の皮を包丁で剥いていた。

「いやいやそうじゃなくて、今日ここに来ていることだよ」

どうやら、作っているのはカレー。
でも既に一回包丁で指を切ってしまっているらしく、絆創膏から血が滲んでいた。

「やだ、剛さん、指切っちゃったの?」
『うん。アウトドア用の小さいナイフなら扱えるのに、こういう普通の包丁は苦手みたいで』
「それだと、止血出来てないじゃない。ちょっとこっちに来て」
『ごめん』

ソファーで絆創膏を新しく付け直してあげた。

「何で今日、ここに来たの?予定してなかったよね。来るならメールでも送ってくれれば良かったのに」

私の問いかけに、剛さんは俯いた。
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