孤独女と王子様
『それはないよ。俺が普通のサラリーマン家庭のように夜、きちんと帰ってこられるような仕事の仕方をしているのであれば、せめて短い時間でも娘と過ごす時間が欲しいと思うけど、今の俺には十分な時間が取れないから、返って由依に寂しい思いをさせる』

そう言うと、お父さんは鼻で笑った。

『今は成瀬川家所有のマンションに住んでいるし、住まわせたのはお前だろ?そうじゃなくても由依に愛情を注ぐのは、お前の役目だ、あと・・・』

お父さんが話をしている最中に、ドアが開いた。

入ってきたのは、小学校低学年くらいの男の子。

『お、啓慈、来たな』
『お父さん、用事って何?』
『啓慈に紹介したい人がいるんだ』

体が小さい割には、精悍な顔つきと、しっかりとした言葉づかいだ。

『剛兄ちゃんと・・・こんばんは』

啓慈くんは私に向かって頭を下げた。
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