孤独女と王子様
車はマンションに到着した。

衣装ケースや段ボールを蒼が会社から持ってきてくれた台車を使って運ぶ。

21階に到着し、家の扉を開けた途端、すごくいい匂いがした。

この匂いは…筑前煮だ。
僕が前に好きだと由依ちゃんに言っていたメニューだ。

「ただいま」
『お帰りなさい』

由依ちゃんが出迎えてくれた。

『初めまして。由依といいます』

由依ちゃんは蒼に向かってお辞儀をした。

『俺は、コイツの悪友で…』
「イテッ！」

僕が痛がった理由は、蒼が"コイツ"と言った時に僕の背中を思いっきり叩いたから。

『諸星（モロホシ）蒼です。由依ちゃん、仲良くしてね』
「蒼、痛いよ。少しは加減してくれない？」

由依ちゃんはそんな僕らを見て"仲がいいんですね"と笑っていた。

荷物を寝室と奥の空き部屋に入れて、リビングに戻ると、

『荷物、運び終わったらすぐごはんにしますから手を洗ってきてくださいね』
『はぁい』
「分かった」

僕の返事は蒼の声にかき消された。
ホント、軽いんだから、コイツ。
< 348 / 439 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop