シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 そこに入っていたのは、幾つかのおもちゃや人形だった。
 全部、どこか見覚えがある感じで。
 そして、見るからに古そうだった。
「覚えてないか。これらは、雫と俺が幼稚園時代、一緒に遊んだおもちゃの一部だ。他の多くのおもちゃや人形は、俺の実家にあるけどな。俺の部屋で大事に保管してある。ここにあるのは、ほんの一部だ。ここにもしまっておいたんだよ。ここなら、恐らく誰にも取られる心配がないと思って。この缶も丈夫だしな」
「大事に取っててくれて、ありがとう。この人形、特に見覚えがある……」
「おふくろが買ってくれたヤツだな。『雫ちゃんと遊ぶように』ってな」
 はっきりと記憶はなかったけれど、懐かしさを感じた。
 感慨にふける私の指が、紙のようなものに触れる。
 これ、何だろう……手紙?
「それこそ、俺が見せたかったものだ。わざわざ、水着を買ったり、泳いだりしてまで、ここへ雫を連れてきたかった、一番の理由ってわけ。気にせず、読んでくれ」
「いいの? これ、宛名も何もないけど……」
「だぁ~。幼稚園児に、宛名など期待するな。鬼かよ」
 おかしそうにショウ君は笑う。
「えっ、これも幼稚園時代の?」
「もちろんそうだ。いいから、さっさと開けて読めって」
「う、うん……」
 私は言われたとおりに、読み始める。
 そこには、だいたい以下のようなことが書かれていた。

 ショウ君が私のことを、好きでいてくれてること。
 それが言い出せないこと。
 言えないまま、島を去るのが悲しいこと。
 いつまでも、私だけを好きでいてくれること。

 読みながら、私は泣けてきた。
 ショウ君……私のこと、こんなに想ってくれてたんだ……。
 幼稚園時代のショウ君の想いが、じかに伝わってくる。
 文章はひらがなばかりで、短いものだったけど、はっきり読むことができた。
 むしろ、私の目にたまった涙のせいで、読みにくくて。
「おい、泣くなよ」
「だって……」
「な、やっと分かったか? 雫があんまり、信じてないみたいに思ったからな。俺がどれだけ、お前のことを想ってきたのかを」
「ずっと信じてたよ。それでも……こんなの見たら、嬉しくて泣いちゃう」
「嬉しいか、よかった。俺も嬉しい」
「ショウ君!」
 私は我慢できず、ショウ君に抱きついた。
 二人とも水着姿なので、ぬくもりがじかに伝わってくる。
「雫、愛してる」
 ショウ君は優しく抱き返してくれた。
「私も! しばらく、こうしていたい……」
「うん」
 薄暗がりの中、私たちはしばし抱き合ったままでいた。

「雫、そろそろ、山へ向かわないと」
 やや言いにくそうにショウ君が言う。
「うん……名残惜しいけれど……」
 私は静かに身体を離した。
「いつでもまたできるって」
 今度は優しく頭を撫でてくれるショウ君。
 嬉しくて、頬が緩むのを抑え切れなかった。
「じゃあ、引き返すか。また泳ぐことになるが、大丈夫か?」
「もっちろん」
「元気いいな。じゃあ、行くぞ」
 そして、私たちは洞窟を後にした。
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